Beranda / 青春 / 水の精霊 ~もっと光り輝いて~ / 第3曲 現地を満喫したいのに

Share

第3曲 現地を満喫したいのに

Penulis: あるて
last update Tanggal publikasi: 2026-04-19 06:00:45

「ゆきさん大丈夫?」

 空港に降り立ったわたしは虫の息。

「す、少しだけ時間をください」

 まだなんか空中をフワフワと漂っているような感覚が残っている。

 おかしい。アメリカへの行き帰りは平気だったのに。

「でもゆきさんの意外な弱点を発見できて、以前より親しみが持てましたよ」

 ニコニコと機嫌の良い五代さん。

 ご満悦そうな顔してるけど、わたしはダメージが大きくてそれどころじゃないんですよ。

「さぁゆきさんにしてもらうことをゆっくり考えましょう」

 ロクでもないこと考えてた。

 しばらくして回復したので、そのままコンサート会場近くのホテルに移動。

 今回の会場は5万人規模のドーム。二日間の公演予定にもかかわらずチケットは即日ソールドアウトだったらしい。

 北海道でもそれだけの人が待ってくれていると思うと、東京での公演規模は少し小さすぎたのかもしれないなと思う。初めてのコンサートはアーティスト憧れの場所でやりたかったのもあったけど、次回はもっと大きい場所でやっていいのかもしれない。できるだけたくさんの人にこの歌声を届けたいもんね。

「今日はこのままゆっくりしておいてください。わたしは打ち合わせに行ってきますので、自由に過ごしてもらって大丈夫です。明日は進行についての打ち合わせに参加していただきます。明後日はリハーサルで、その翌日にいよいよ本番です」

 打ち合わせでは演奏やスタッフの皆さんと楽曲の演奏順や舞台装置についての最終打合せ。

 リハーサルでは実際の会場やサウンドステージで、ステージング、照明、音響のバランスを調整し、本番の感覚を掴む。

「わかりました。ホテルでじっとしてるのも退屈なので、少し観光をしてきてもいいですか?」

「かまいませんが、本番を数日後に控えてるので騒ぎにならないように気を付けてくださいね」

 まぁわたしが素顔でうろついていたところで誰も気づいたりしないでしょ。

 テレビに出てるわけでもないしね。

「テレビに出てないから誰も気づかないとか考えてるでしょう」

 なんでわかった?

 出来る女というのは人の心も読めるのか?

「ゆきさんのお気楽極楽な短絡思考なんてお見通しです。甘い! 甘いですからね! ゆきさんの知名度はもはや全国区。知名度で言えば有象無象のタレント以上なんですから。く・れ・ぐ・れ・も! 素顔でうろついたりしないように」

 なんかボロカス言われたような気もするけど、どうやらわたしの認識が甘かったようだ。北海道でも10万枚のチケットが即完売したんだから五代さんの言う通りかもしれない。

 用意の良いことに帽子を用意してくれている。しかも今着ている服に似合うものをばっちり。

「どうせ観光したいって言い出すと思い、さっき買っておきました」

 いつの間に。相変わらず仕事が早いな。

「でも帽子だけで大丈夫なんですか? サングラスとかマスクも必要なのかと」

「そんなあからさまに怪しい恰好をしてたら逆に人目を引いてしまいますよ。逆にこれくらいの方がみんな気にしなくてちょうどいいんです」

 なるほど。人間心理はそんなものかもしれない。

「もうあなたは立派な業界人なんですから、軽率な行動は控えてくださいね」

 人差し指をぴんと立てて、女性教諭のように注意する五代さん。

 なんか妙に似合うよなぁ。

 だけどその人差し指がわたしの顔に伸びてきて、鼻をちょんちょんと突かれてしまった。

「ゆきさんとわたしはもう運命共同体なんですから、あなたに何かあったらわたしも困るんですからね」

 そんな仕草にも嫌味がなく様になってしまうのは五代さんの持つ魅力のせいだろう。

 なんだか自分がとても子供になってしまったような気がする。二十二歳になっても成長しないな、わたし。

 それにしても運命共同体、か。

 社会に出てそういった絆ができるのはとても稀有な事なのかもしれない。

 人生において学生時代よりも社会人になってからの方が圧倒的に長い。人生の大半は仕事をしていると言ってもいいだろう。

 その中で信頼を勝ち取って、いろんな相談に乗ってくれそうな人と出会えるというのはとても幸運な事だろう。

 わたしも五代さんの存在に感謝しないといけないな。彼女を裏切るような行動はとらないようにしよう。

 五代さんが出かけた後、わたしも札幌市内を観光するためにホテルを後にした。

 札幌に来たら、最初に行きたいと思っていた場所へ到着した。

「こ、これは……」

 目の前にあるのは時計塔。有名な観光名所なんだけど……。

「なんというか、何の変哲もない時計塔だね」

 1878年にクラーク博士の提言に基づき、北海道大学の前身である札幌農学校の兵式訓練や入学式用の中央講堂として建設されたという由緒ある時計塔なんだけど、ビルの間にポツンと立っていて情緒を感じることが出来ない。

「現存する日本最古の時計塔なのに、せめて大学の敷地内に建っていればなぁ」

 新渡戸稲造や内村鑑三も卒業したという大学。今では北区に移転されていて、時計塔だけが当初の位置に陣取っている。

 せめて公園にでもしてくれていたらよかったんだけど、現代的なオフィスビルに囲まれた状況では「日本三大がっかり名所」と言われるのも仕方ない。

 それでも百五十年近くの歴史があるということで、過ぎ去った時代の息吹を感じようと意識を集中する。

 ……ダメでした。

「車がうるさい!」

 後方は交通量の多い交差点になっていて、行き交う車の騒音が気になって情緒にひたるどころの話じゃない。

「やっぱ北海道に来たら海鮮丼だよね!」

 気を取り直してグルメ観光にシフトチェンジ。

「まずは海鮮丼だぁ」

 北海道と言えば海の幸。

 ここから歩いて十分程度のところにある市場。今でこそ市場と呼ばれているけれど、かつては|魚町《うおまち》と呼ばれていたらしい。わたしはそっちの名前の方が粋で良かったんじゃないかと思うんだけどね。

 その中でグルメ雑誌にも掲載されている海鮮丼の有名なお店に来た。

 市場にあるだけあって朝早くから営業しており、営業時間はお昼過ぎまで。ちょうどお昼時ということもあって人が多い。

 ようやく席につき、さっとメニューに目を通したけど、わたしの目的は最初から決まっている。

『特選海鮮丼スペシャル』一択!

 ご飯が見えない程贅沢に盛り付けられた色とりどりの海鮮物に散りばめられたイクラが宝石のように光を放っている。

「おいしそー!」

 さっそく豪快に食らいつくそうかと思ったんだけど、妙に視線を感じてしまう。

 ちらりと視線を横にやると、座っていたおじさんが露骨に目を逸らした。視界の端で確認するといろんな人がこちらを見ている。

 ヤバい、バレたか?

 だけど耳を澄ましてもわたしの名前が出てくるわけでもなく、ただ見られているだけなので素性までは知られていないようだ。多分。

「コホン」

 だけどさすがにこれだけの視線を集めている中、海鮮丼にかぶりつくわけにもいかず、一口ずつ上品に食べる羽目になってしまった。

 これならテイクアウトにすればよかったなぁ。

「そりゃゆきさんみたいな美人が一人飯なんかしてたら注目されますよ」

 ホテルに帰った後、五代さんに今日の出来事を話したらさも当然のように言われてしまった。

 あの後、市場内にあるスイーツ店にも寄ってクレープを食べたんだけど、そこでも注目されてしまい、一口ずつリスみたいに食べるしかなかったのだ。

「いつもはみんなと行くから気にならなかったんだけどなぁ」

「人数が多いと圧倒されてしまうからでは? ゆきさん一人だけだともしかしたらという下心が働いてしまうものなんですよ」

 そういえば海鮮丼の後もスイーツの後もナンパ男から声をかけられたな。当然丁寧にお断りしたけれど。

「……騒ぎは起こしてませんよね?」

「……起こしてない、よ?」

「なんで疑問形なんですか」

 スイーツの後にナンパしてきた男がしつこかった。

「もっと美味しいスイーツのお店案内するからさ」

 などと言い、何度断っても諦めるということを知らなかったのだ。

 挙句に肩に手を回してきたもんだからちょっと腕を捻りあげてやっただけ。

「ナンパ男の撃退は騒ぎに入らないよね?」

「はあぁ……」

 盛大にため息をつかれてしまった。

「それで、何人投げ飛ばしたんですか?」

「投げてないから! ちょっとしつこかった男の腕をグイって……した、だけです」

 捻りあげる動作を交えて説明すると五代さんの表情が険しくなった。

「お姉さん方からゆきさんの武勇伝はいろいろと聞いていましたが。あれほど気を付けるようにと言ったのに」

「はい、てゅいまてん」

 ゆき、しょんぼり。

 今回は上手く対処できたと思ったんだけどなぁ。

「く、そんな上目づかいで見られると……!」

 しょげたわたしにたじろぐ五代さん。

「外出禁止は勘弁してぇ」

 怯んだ隙を見逃さず、涙目で畳み掛けた。

「くそぉ! 可愛すぎるんですが! はぁ……今回は大きな騒ぎにもならなかったようですし、大目に見ます」

「やったぁ! 五代さん好きぃ!」

 もろ手を挙げて万歳をするわたし。最近自分があざとくなったような気がする。

「でも次からはわたしも同行しますから」

「はい」

 そこまで甘くはなかった。

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi

Bab terbaru

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第38曲 精霊の正体

     あれからさらに一年が過ぎた。 残業続きでもうそろそろ解放してほしいんだけど、現世というブラック企業は簡単には逃がしてくれないものらしい。 最近は昔のことを思い出しながらボーっとすることが増えてきたと思う。 時間が突然飛んでしまうような感覚。 そういえばこの感覚って以前にも体験したことがあるような。 今日も一日が終わり、やや疲れた体をベッドに横たえて物思いにふける。「あぁ、そっか。若い頃、一度眠りについた時と同じ感覚だ」 忘れることが出来ないという全記憶障害で脳の容量が限界を迎えた時、わたしは一度倒れた。 記憶の整理に挑んでいたことと、たぶんもう一度精霊さんが手を貸してくれたことによってもう一度目を覚ますことが出来たけど、次はそういうことじゃないだろう。 今度はわたしの脳ではなく、寿命そのものが限界に来ていると思うから。 今の世の中、もっと長生きする人はたくさんいるけど、わたしは生きることに執着しているわけではない。自分が為すべきことを済ませた今、もういつ旅立ったとしても悔いはない。 ひよりとの間に男のが産まれ、他の三人との間にはそれぞれ女の子を授かった。みんなそれぞれが家庭を持ち、今では孫たちすらも成人するほどに大きくなった。 命をつなぐという生命としての役割は果たした。 歌手としても、懐メロと呼ばれるようにはなってしまったけど、今の若い子にも受け入れてもらえるような曲をたくさん残すことが出来たし、世代を超えた名曲ということでいまだにテレビなどでも流れることがある。「いろんな人に元気を届けること、できたかな」 芸能界に復帰したことによってたくさんのファンレターが贈られるようになり、その中には『元気をもらった』『小さな幸せの大切さを思い出した』などといった嬉しい言葉をもらった。歌手としてこれ以上ないほどの賛辞だと思う。「この老人ホームも、もう大丈夫だよね」 一年も経てばわたしが教えた料理のレシピもすっかり定着したし、いろいろ考えたレクリエーションも今では何も言わなくてもそれぞれが楽しんでくれている。わたしがいなくなっても暗い雰囲

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第37曲 最後まで使命を全うするだけ

    「結局子供四人に恵まれて、幸せな家庭に恵まれたよなぁ」 年月が過ぎ、為すべきことを為したと胸を張って言えるようになった。 治安の関係でアフリカにだけは行くことが出来なかったけど、中東や東南アジア、南米でもコンサートを開くことが出来たし、チャンネル登録も世界中の人からしてもらえることが出来た。「でも残念ながらギネス記録を塗り替えることはできなかったんだよねぇ」 三億人を大きく超えることはできたものの、当時の世界記録四億三千万という数字には及ばなかった。 それでもわたしが理想として追い求めた、世界中の人々に歌声を届けるということは達成できたし、たくさんの人を元気にする楽曲を作り続けることはできたと思う。 今はもう以前のように体が動かなくなって、声もほとんど出なくなってしまったけど、鮮明に残る記憶をたどれば十分幸せな人生を歩んできた。 決して平坦な道ではなかったけれど、たくさんの人々の助力を得られて突き進んでくることが出来た人生。「愛する人と共に暮らして、家庭だけでなく仕事の面でも支えてもらって、わたしは本当に恵まれた人間だったと思うよ」 ベッドの上で声に出す。 だけど答えてくれる人はもう誰もいない。「わたし一人だけが残っちゃったな」 わたしが愛し、愛された四人は一足先に天国へと旅立った。 あれから半世紀以上の時が経ち、わたしの周囲からいろんな人が去っていった。それを見送り続けるのも、わたしに課された『使命』なんだろう。 生き物はすべからく、産まれた瞬間から死に向かって歩きだすもの。 わたしが関わった全ての人に最後まで、幸せを届けて見守り続けることは『水の精霊』として当然のことだろう。「それにしても……残業長くない?」 子供たちを自分の家庭を持って壮年になり、最後まで寄り添い続けてくれたひよりも五年前に旅立った。 わたしの役割はとっくに終わったはずなのに、わたしはいつまでこの世に取り残されているのだろう。「みんなに……会いたいなぁ」

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第36曲 家族は計画的に

    「やっぱりアメリカのノリは日本とは違うね。会場全体の温度がいつもより高かったような気がするよ」 前回渡米したときのセンセーショナルなデモンストレーションはしっかりとアメリカ国民の記憶に残っていたようで、初コンサートだというのにチケットは早々に完売していたそうだ。プレミアチケットとして高値で転売もされていたというのだから、注目度は相当高かったのだろう。 告知ポスターにもわたしが銃弾を弾いた時の、発射前に構えを取っている姿が印刷されており、エンタメ好きのアメリカンにとっては興味をそそられるものだったのだろう。「事前のインパクトと今日という本番での実力が完全にマッチしたが故の熱狂でしょうね。ゆきさんなら当然です」 なぜか一番鼻を高くしているのは五代さん。 この日のために忙しく働いて力を注いでくれただけに、大成功に終わったのが誰よりも嬉しいんだと思う。今にも小躍りしそうなほどに機嫌がいい。 それだけわたしのことを真剣にサポートしてくれているということでもあり、ありがたいことなんだけどね。「これで愛人一号としての面目躍如です!」 まだ言ってんのか、そのネタ。 もうわたしも一児の父だというのに、いつまでその話題を引っ張るんだろう。行き遅れるよ?「わたしの目標はゆきさんをこのまま世界的大スターにして、その優秀な遺伝子を体外受精させてもらうことですから!」 とんでもねーこと考えてやがった。「わたしの遺伝子は量産型じゃないです!」 まったく、我が子の事を思うならちゃんとした父親は必要でしょうに。「いいんじゃねーか? 遺伝子くらい」「浮気にはなりませんね」「社会貢献」「悠樹さんの子なら可愛い子が産まれるのは間違いないもんね。うちの子もめっちゃ可愛いし」 うちの嫁たちはなんでこんなに寛容なんだ? わたしの子種がばらまかれることに抵抗感はないのだろうか。 ひよりはしれっと親バカ発揮してるし。「正妻から許可もいただきましたし、子種提供お待ちしていますね」 おいおい、本気か。

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第35曲 初心に帰り、果敢に挑む

    「おめーらがうかうかしてる間にゆきの愛人は六号まで埋まっちまったぞ」 より姉にチクられた。「どういうことか」「説明してもらえる?」 聞くや否や詰め寄ってくる文香と穂香。 久しぶりに見たよ阿吽の呼吸。さすがはわたしの金剛力士様。 ちょちょ。表情が怖いよ。本当に仁王様になってるから。「なんかね、わたしが何も関与しないままにみんなが勝手に愛人を名乗っていって、気が付いたらそんな数字になってたの」 何を言ってるのかよく分からないけど、本当にそうなんだから他に言いようがない。「それですでに六人も」「さすがというかなんというか」 感心されても困ります。「それじゃ、七号は元副会長に譲るか」「穂香は八号でいいの?」「ラッキーセブンと末広がりで縁起がいいね。あははは」 もうこうなったら笑うしかない。 土砂災害で濁流にのみ込まれてしまったような気分だけど。「全員を孕ませたらサッカーチームが作れるな」 チクった本人が何を呑気なこと言ってるんだ。一人補欠じゃねーか。「え、愛人って子供を産む権利もついてくるの?」「その権利は是非行使したいね」 そんなわけねーだろ。 嫁だけでも四人いるのにその上愛人まで孕ませるとかどんなクズやろーだよ。「二人ずつ作れば対戦もできますね」 かの姉は何言ってんの?「主審と副審もつく」 あか姉まで。確かに人数的にはちょうど合うけどさ。「絶倫だとは思っていたけど、そこまでとはね」 いや、干からびるわ。 ひよりはなぜ昔からわたしを絶倫と決めつけているんだろう。「バカな事ばかり言ってると今度のコラボに二人も参加させるよ」 かつてわたしと三人でダンスを披露したこともある二人。 息も合ってて上出来だったんだし、もう一度あの感覚を味わうのも悪くない。いつも一人だからね。「もうあんな風に体が動か

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第34曲 旧友たちもジョブチェンジ

     一年後にアメリカ横断ツアーをすることが正式に決定した。 その後にヨーロッパ遠征も決まり、今いくつかの国での交渉がすでに進んでいる。上手くいけばアメリカに続いてすぐにヨーロッパツアーを組むこと下出来そうだ。 人生という限られた時間の中で、できることなら早いうちにいろんなことを経験しておきたい。 それは生き急いでいるわけじゃなく、世界が広すぎるから。 アジアの各地も回りたいし、中東や南米なんかも行ってみたい。アフリカは治安の問題もあって未知数だけど。 まだ若くてわたしの商品価値が高いうちに世界を回ろうと思ったらスケジュールは詰めていかないと到底間に合わない。 まだまだ日本でもコンサートはやりたいし、アメリカやヨーロッパも一度だけで終わらせるのはもったいない。どちらも広いから一度で全土を回るなんて不可能だし。「今のところ日本の人気が高いフランス、イタリア、ドイツはほぼ決定ですね。でもどうせならあと何か国は回っておきたいでしょう」 五代さんがスマホでヨーロッパの地図を出しながら、開催国の目星をつけていく。「うーん、イギリスは外せないでしょ。あとギリシャにも行きたいし、スイスなんかもいいよね」「ヨーロッパと一言で言ってもかなりの国があるんだから、ある程度は絞らないと」 放っておいたらEU加盟国全部を回ってしまいそうな勢いに、ひよりが待ったをかける。 わたしは都合さえつくなら全部回ってもいいんだけどね。「さすがにEU全土を制覇しようと思ったら一年くらいかかりますよ。お子さんもいることですし、一か月程度で帰ってこようと思ったらあと三か国くらいが限度だと思いますよ」 一年もかかるなら子供は連れていくけどね。いっそ二年くらいあっちに住んでしまった方が速いかも。「今子供を連れて行くのもアリみたいなこと考えてるんでしょ。ダメだよ。日本にもファンはいっぱいいるんだから。一年も日本を留守にしたら日本のファンからクレームが来るよ」 それもそうか。海外進出ということで少し舞い上がっていたようだ。 ちょっと落ち着けわたし。「それじゃ、

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第33曲 世界を駆ける精霊

     ひよりとの子供が産まれ、半年ほどは仕事量をセーブした。 四人もママがいるのだから必要ないとは言われたものの、わたしも育児に参加したかったから。 今までの五人にもう一人増えてずいぶん賑やかになったけど、以前と変わらず温かい家庭は続いている。 お父さんとお母さんはもうすでに孫馬鹿ぶりを発揮していて、休みの日に孫と一緒に散歩するのが趣味になってしまったようだ。あれだけ忙しく休日出勤もしていたのに、最近ではしっかり休日を取るようになったほどだ。その分普段の帰りは前より遅くなったけど。 今日も二人して休みを取って、ずっと孫にべったりだ。「ゆきさん、お仕事をセーブしてるところ悪いんですが、ちょっと大きなオファーが入ってしまったのでなんとか受けてもらえませんか」 ひよりが退院してから連日のようにうちを訪れていた五代さんがとても申し訳なさそうな顔をしながらお仕事の話をしてきた。 ほとんど毎日来てたのに、しっかり仕事はしてたんだな。いつの間に。 出来る女は努力してる姿を見せないものなのか。白鳥のように。いつかその足元を覗いてやりたいけれど。「そろそろ育児も落ち着いてきたし、お仕事を頑張ろうと思っていたタイミングだったので大丈夫ですよ。それで、どんなお仕事ですか?」 もう既に保育園の申し込みも済ませ、後は抽選結果を待つだけだ。 わたし達の住む市はそこまで待機児童が多いわけでもないので、さほど待つことなく入園させることが出来ると思う。 そしてもうひとつ、お母さんが仕事で第一線を退き、意見役というか相談役のようなポジションに代わり、パートタイマーのような時間制で働くことを決意したそうだ。 わたし達も全員手を離れ、今までのようにあくせくお金を稼ぐ必要もなくなったことと、一番は孫と一緒にいる時間を増やしたという理由かららしい。まったく。 うちの子はパパっ子ママっ子になってほしいんだからおばあちゃん子にはさせないでよね。 そんなわけで本格的に仕事の方をスタートさせようとしていたタイミングだったので、オファー自体はありがたかったんだけど、さすがにその依頼元には驚いた。 なんとア

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第14曲 婚姻届けは誰のため?

     さすが敏腕社長と言うべきか、記者会見の手筈を整えるのが敏速だった。 顔合わせをしてから数日後、五代さんから連絡があって日時と場所、そこに集まる記者たちまで決まっていたのだから。 記者会見は三日後と決まった。 だけど、その前にやっておくべきことがある。「それじゃ行こうか、ひより」「はい」 借りてきた猫のように大人しくなってしまっているひより。 これから向かう先を考えると仕方がないのかもしれないけど、妙にしおらしくなっているのが愛おしい。「緊張してるの?」

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第9曲 祝い酒もほどほどに

    「なんでそんなひどいこと言うんですかー!」 より姉の言葉に憤慨する琴音ちゃん。さすがにわたしもそれは言い過ぎだと思う。 彼女だって芸能界のトップに君臨しているのだから、全く役に立たないということはないだろう。 これから何かでお世話になるかもしれない。「いんや。ゆきはあたしらがいれば十分だ。内助の功というやつを見せつけてやる」「まぁた! 正妻の余裕を見せつけてー!」 弱いくせにお酒が好きなより姉。もうどれくらい飲んでるんだろう。 すっかり出来上がってしまっている。 まだそんな

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第8曲 新しい門出

     三か月後、スタジオに姉妹たちとわたし、五人が集まった。「それでは、新会社『Fairy's Kin』の設立を祝って、かんぱーい!」『Fairy's Kin』は妖精の眷属という意味でつけた。みんながわたしに力を貸してくれるのだから、これ以上相応しい名前はないだろう。 わたしの音頭でそれぞれがグラスを掲げる。 株式会社の設立と、福利厚生の充実、姉妹たちの仕事の引継ぎなどで必要な期間を過ぎて、今日ようやく起業へとこぎつけた。 代表取締役社長はわたし。副社長にひより。専務はより姉。常務があか姉。映像技術部長にかの姉が就任。

  • 水の精霊 ~もっと光り輝いて~   第4曲 視線は常に先を見て

     北海道でのコンサートは東京にも負けず劣らず盛り上がり、二日間の予定はあっという間に過ぎ去ってしまった。 北の大地でも熱狂的なファンがこんなにもいるんだということに、日本中に見てくれている人がいるんだという実感が湧いてくる。 チャンネル登録者数は現在3000万人に迫る勢いで増えていて、中には外国の方だっている。  日本だけでなく世界にも歌声を届けられていることがとても嬉しい。ネットで活動していることの利点が最大に出ているなぁ。「ゆきさんの知名度は今ではもうワールドクラスですからね。いずれ世界中からお呼びがかかるようになるんじゃない

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status